ダンナに解雇されたお妾さんが久しぶりに銀座に出て、資生堂の海老フライをヤケ食いしようとしたら、もはや“ご時勢”のために食べられなかったという話「売家」。(獅子文六全集11巻)
実は、このお妾さんが解雇されたのもダンナが浮気したからではなく、「ご時勢」の影響で周囲から睨まれ「別宅に石を投げ込まれ」る恐れがあった、という設定なんです。
■ちょっとゾクッとするのは、このお妾さんが銀座でバッタリ出会った男友達(キザな2枚目俳優)が、「兵隊サンのような服」である「国民服」を「この頃、楽屋でも大流行なんだよ」とかいって、喜んで着ているところ。
それまでは、ゾロリとした派手なお召しを着流していたキャラなのに〜。ちなみに、国民服の流行的価値は、2年ほどで消滅したそうです。
■当時の読者が「世の中は、どんどん、変わっていくなあ」と思いつつ、この小説を(まだ、若干の余裕をもって)楽しんでいたかと思うと、(そして、まさか数年後に焼け野原になるとは想像もしていないと思うと)、たいそう複雑なきもちになります。