佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

得意なことを活かす

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■かつて、「職域奉公」という言葉があったそうです。魚屋は魚屋で、役者は役者で、それぞれ、オクニのために職業に精を出す、みたいな意味らしい。


獅子文六の戦時中の小説に、職域奉公をテーマにした「売家」*2という作品があります。


主人公のお駒は、旦那に捨てられたばかりのオメカケさん。元・柳橋の芸者で、「若いヒトみたいに、ツヤツヤしかったり、ミズミズしかったり、エロエロしかったりするわけにア」いかない年齢という設定です。


日本が戦時体制に突入し、それまで妾宅に女性を囲ってきた旦那さん連中は、いきなり肩身が狭くなって、こぞって愛人に別れを切りだしはじめる・・・そんな時代。


国民は、ガラリと急変した「ご時勢」を認識して、職域奉公!職域奉公!とはりきっており、オメカケさんを首になったばかりのお駒さんも、何かお国の役に立ちたいー!職域奉公してみたいー!と燃えるのです。


お駒さん自身はとても気だてが良い女性ですが、婦人雑誌は、彼女のような立場の女性を「家庭を脅かす悪魔」と攻撃していました。そして、そういう職歴しか持たないお駒さんに出来そうな「職域奉公」は、戦時下には、なかなか無い。


焦るお駒!


彼女は、兄から「おめえも、素ッ堅気になって、どこかへ嫁にいったら、どうでえ」とすすめられます。


しかし、彼女は、“婿1人に嫁30人の時代に、自分が割り込んだら堅気のお嬢さんに申し訳ない”と考え、「やっぱり、身についたことでなければ、職域奉公にはなりませんからね。」と、「接客技術者としての自覚のもとに」、食堂の女中頭になるのでした〜。


・・・・って、これだと、ただ芸者がウェイトレスに転職しただけ、みたいにも見えますが、「接客技術者としての自覚をもって」、というのがこの小説のポイントなのでしょう。同時期の獅子文六の小説には、産業戦士としての自覚をもった工員のにいちゃん、みたいな話もある。工場街の産業戦士達がカフェーで女給相手にヤンチャする、みたいな。



獅子文六氏の小説は、粋(笑)、職域奉公(笑)、国民服(笑)、など、ほとんどの言葉に(笑)、あるいは、www、がついているイメージ*3なので、読書の苦手な私でもとっても読みやすいです。

*1:昭和5年/川柳漫画全集より。

*2:獅子文六全集 11巻

*3:「岩田 豊雄」の名で書くときは、そうはいかないんでしょうねぇ・・

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