■「グランド・ブダペスト・ホテル」のオープニングは寂れたホテルが舞台なのですが、その寂れ方がすごく良かった。
華やかでクラシックな建物に1960年代の改造が加えられているんです。食堂の恥ずかしい大壁画(晴れた日のアルプスみたいなやつ‥)*1や、ペコペコの自販機や、やたらに貼られた掲示物(受付はアチラです、的な。従業員の少なさを掲示物でカバー?)など。
でも、そのペコペコ自販機が強制的に時をかけさせてくれるんです。ああ人生は走馬灯だね!あっけないね!と。
■そんな「グランド・ブダペスト・ホテル」を日本で作るならば、と妄想してみました。
舞台は(私のブログでは繰り返し登場する)有楽町の日劇がおすすめ。現・有楽町ルミネあたりです。
出来た当時は「陸の竜宮」だったそうですが、戦後、容赦ない改造で原型が全くわからなくなってしまった物件なのです。出来たのは1933年。ちょうど「グランド・ブダペスト・ホテル」の回想シーンと同時期ですし。
日本版のストーリーもそのまま「1968年、日劇にしばしば現れる謎の老人と、彼から話を偶然聞く事になった小説家」みたいな感じでどうでしょう‥
日劇は、戦時中は風船爆弾の工場*2→敗戦後は若い男性に人気の裸レヴュー→高度経済成長時の大量ネオン装飾など、時代ともに変化しました。
その変化っぷりは「グランド・ブダペスト・ホテル」のケーブルカーより急勾配かも!
まずは竣工当時の昭和8年頃(1933年)をご覧下さい。設計は、銀座和光、原美術館、上野東京帝室博物館(現東京国立博物館)や日比谷第一生命館などを手がけた渡辺仁氏。和光と同じく立派なイメージです。
そして昭和55年頃。日劇の最終の姿。もはや出来た当時の面影はありません。(銀座百点624号から)
「来夢来人(小柳ルミ子)」という垂れ幕までつけられちゃって。垂れ幕の隙間に、凝った形の窓が見え隠れしています。「来夢来人」の他、「農林年金会館」「デン晴海(ホテル)」「後楽園矢野大サーカス」「象物語」「影武者」「いい色との出会い東芝カラーテレビ」「日劇ミュージックホール、素敵なショータイムをあなたに」「鶴田浩二特別公演」などの看板があります。
私はこの段階の日劇しか知らないのですが、私の印象ではただの「変なビル」でした。このあと取り壊され、有楽町のマリオンになり、マリオン亡き後は有楽町ルミネになります。