佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

避難に慣れている人たち(「宇宙人 東京に現る」感想その2)

小津映画で不満に思っている点があります。それは、戦争の痕跡が見えづらいということ!

たとえば「彼岸花」(1958年・昭和33)には、“戦争の時は大変でだったねえ”みたいなセリフが、一瞬あります。公開当時の観客は、全員が戦争体験者。だから短いセリフであっても「わかるー!」と共感できたのでしょう。

しかし、今見ると、美しい映像にばかり目がいってしまう。「古き良き時代!敗戦10年ちょっとでこんなに優美な生活ができたんだな」と早合点してしまいそうになるのです。

www.youtube.com

 

『宇宙人 東京に現る』(1956年・昭和31 )は、「綺麗な映画は、戦争の痕跡が見えない」という私の不満を吹き飛ばしてくれました。

映画の冒頭は、ベタな美しいモチーフがビッシリ。飲み屋での暖かい会話・知識階級のお宅・かっちりした美男美女など。

しかし、いざ、宇宙人の襲来を告げるサイレンが鳴ると、映画の空気は一変します。とにかく逃げる群衆の様子が「プロ」!避難の姿に迫力がありすぎるのです。

 

地下鉄駅になだれ混む人々。

走っている列車の窓から飛び降りる人々。

もんぺで猛ダッシュする人々。

ビルの窓から次々と放り出される荷物。

祈祷する宗教団体。

 

ああ、この人たち、逃げるのに慣れてる!この時代の人にとって、「サイレンが鳴って逃げた」のはつい昨日のことだったのだなあ。大人にとって10年前なんて「つい昨日」なんですから。

 

シン・ゴジラ』にも群衆が地下鉄駅に逃げ込むシーンがありました。でも『宇宙人 東京に現る』の避難シーンとは、迫力がぜんぜん違うのです。(いや、迫力がなくていいんですよ。「シン・ゴジラ」の俳優が“逃げ慣れていない”のは、とても幸せなことなのですから)

 

『宇宙人 東京に現る』は、特撮部分こそ作り物がありますが、避難シーンは圧倒的にガチなのでした。

 

▽『宇宙人 東京に現る』より、走る列車の窓からガンガン飛び降りるシーン。体の柔らかさと瞬発力がすごい。荷物を窓の外に放り投げる→しなやかに飛び降りる→線路脇の斜面をガーッ!!と這い上がる。一連の動きがサマになりすぎている。このシーン、とびきり身体能力が高い人を使ったのか?それとも、当時の人は、みな逃げ方を体得していた?

f:id:NARASIGE:20200317204331j:plain

ふと考えれば、小津映画でピシッと正座をしているスターたちも、戦争をくぐり抜けてきたわけです。彼らもいざサイレンが鳴れば、秘めた身体能力を発揮するのでしょうか?防空頭巾で猛ダッシュするのでしょうか。

「宇宙人 東京に現る」は、そんなことを考えさせてくれる映画でした。 おすすめです。

narasige.hatenablog.com

 

 

h3 { color: #FFFFFF; background: #000000; padding: 0.5em; } h4 { border-bottom: dashed 2px #000000; } h5 { border-bottom: double 5px #000000; }