佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

城戸崎愛さんと、松本清張と。

戦火とドーナツと愛 (be文庫)

戦火とドーナツと愛 (be文庫)

 

戦時中に女学生だった城戸崎愛さんの自伝です。野中モモさんの素晴らしい記事で知り、早速、購入しました。最近の私は松本清張になっているので(笑)、少女時代の城戸崎先生のご苦労に心を痛めると同時に、清張案件でギクっとする箇所がいくつかありました。

 それは、城戸崎愛さんの「兄嫁の父」にあたる人が、若い城戸崎愛さんに「東京裁判の傍聴券」や、日本に出まわる前の抗生物質をくれるという部分。なぜ「兄嫁の父」がそのような貴重品を入手できたかというと、彼はGHQに関わる仕事、それも日銀の地下に眠っている接収ダイヤの鑑別&通訳の仕事をしていたというのです。戦火とドーナツと愛 (be文庫)より引用します。

なぜそんな傍聴券が私の手に渡ったのか。それは私の兄嫁の父親が御木本真珠店に勤めていたからです。(略)戦中に、軍需物資として旧日本政府が供出させていたダイヤの総量は、32万1366.64カラットにもなると言われています。それらは日銀の地下に眠っていたのですが、終戦後にGQが押収したのです。兄嫁の父はその鑑別と通訳の仕事に駆り出されて、その関係で傍聴券が手に入ったようでした。その他にコカコーラ、アーモンドロック、ハーシーのキスチョコなどと言うものも…。

この、日銀の地下に眠るダイヤといえば、まさに、松本清張「日本の黒い霧」下巻の「征服者とダイヤモンド」ではないですか!「征服者とダイヤモンド」をざっくりまとめると、"戦時中に供出された大量のダイヤモンドを終戦GHQが押収した。しかしダイヤの扱いは超どんぶり勘定。何者かによってダイヤがごっそり持ちさられていたが、記録が全然ないため、真相は闇の中"ということです。

 

「征服者とダイヤモンド」によれば、当時、日銀の接収ダイヤの鑑定を行った日本人は、まず指紋をとられた上でGHQの監督者の目の前で鑑定したそうです。しかも鑑定した結果の記録はとれない。記録はアメリカ側が行うからです(そんな〜😭😭)。その鑑定者に城戸崎愛さんの「兄嫁の父」が含まれているのかどうかはわかりませんが「鑑別と通訳に駆り出され」る立場だった「兄嫁の父」が相当ピリピリする環境で働いていたことが想像できます。

 

また、戦火とドーナツと愛 (be文庫)では、真珠のプレゼントが外交に効果的であるとも書かれていました。そのくだりを引用します。

私の兄嫁の父が、御木本真珠店に勤めていたからです。(中略)ところが、日本人が戦争に負けて、ご存知のようにマッカーサーが厚木に第一歩を踏み入れ、やってきました。そのとき、敗戦国としてどのような歓迎をしたらいいものか、検討が重ねられました。そのひとつに、アメリカの高官の「夫人たちの首を真珠で締める」という御木本幸吉の案があったようです。つまり、真珠の贈り物で大いに、心証をよくしてもらおう、ということだったのでしょう。難しい外交の影には、こんなエピソードがあるのですね。

アメリカの高官の「夫人たちの首を真珠で締める」という部分を読んだ時、再びギクっとしました。敗戦直後の日本を記録した、マーク・ゲインのニッポン日記 (ちくま学芸文庫)に、「安藤」という「ギャングの親分」がアメリカの女性記者に真珠の首飾りをサクッとプレゼントするエピソードがあるからです。(「安藤」は「東京自家用自動車協会」の会長で、ガソリンの配給・トラックの一隊・各種の建設工事まで幅広く支配しており、皇族とも関係が深い大物。トラックの一隊を自由に出来るって、なんだか「アイリッシュマン」っぽい。)以下、「安藤」の事務所にマーク・ゲインの一行が行った際に、真珠の首かざりをプレゼントされた箇所を引用します。

吉田の通訳で、安藤はアメリカおよびアメリカの新聞特派員に対して彼がいかに愛情をもっているかをのべた。(中略)「何か記念になるようなものでも」と言いながら、安藤は電話機の一つを取り上げた。まもなく若い婦人が現れて、小箱を安藤にわたした。彼はそれをあけ真珠の首飾をとり出し、「マーチン夫人ご来訪に対する感謝のしるしに」と言った。リーは何か言おうとしたがうまく言葉が出ないようだった。安藤は彼女の軍装のシャツの襟に、その首飾りをかけたが、リーはそのときもまだ一生懸命抗議中だった。「畜生、何百ドルもするにちがいない」とN大尉がいった。真珠は大きくいい"つや"をしていた。

粒の大きい、高価な真珠を気前よくアメリカ人に贈っちゃう「安藤」。この真珠がどこのブランドのものかわかりませんが、まあ、これも、一種の「外交」なのでしょうか…

↓この「安藤」については、松沢呉一さんのブログに詳しいです。

www.targma.jp

【参考画像】御木本幸吉氏 1948(昭23)

Kokichi Mikimoto, 1948

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