羽田空港と、角砂糖のような建物

獅子文六「胡椒息子」昭和12年8月〜13年9月「主婦の友」連載)に、富豪の家庭の少年少女が羽田空港に遊びに行くシーンがあります。羽田空港で「エア・タクシー」に乗り、「東京の空の散歩」をするつもりなのです。(話の展開上、「エア・タクシー」には乗り損ねるのですが)以下、羽田の描写を引用します。

染めつくように青い行手の空に、純白な、角砂糖を積んだような建物が見えた。(略)そこはまるで小さなホテルのロビイのように、清潔で、明るかった。半円形のサンルームが正面にあって、そこから何万坪とも知れない広い草原と、青い東京港が見渡れさた。隣に喫茶室があった。(略)飛行機に乗り降りする旅客達が、一憩みする場所であるらしい。

 

「胡椒息子」は昭和12年8月から昭和13年9月まで「主婦の友」に連載されました。連載から10年もしないうちに羽田空港は激変し、少年少女が角砂糖を積んだような建物で洋菓子と紅茶を頼む、みたいな優美なことは、過去の夢になるのですが…。

 

(いやあ、「胡椒息子」や「悦ちゃん」のように、昭和10年初頭の都会の子どもがモダンな暮らしをする小説って、読んでいてすごく複雑な気分になりますね。小説連載のあと間もなく、日本も世界も激しくフェーズが変わってしまうから。支那事変以降は、獅子文六の短編にも「時局の急転」「時勢」「時節柄」などの単語が頻繁に出てくるようになります。敗戦の年に「胡椒息子」と「悦ちゃん」は、20歳前後になっているはず‥。彼らが無事に生き延びていれば、の話ですが。)

 

 

さてさて、この「角砂糖を積んだような建物」らしき画像を、敗戦後、羽田がHANEDA ARMY AIR BASEになってからの写真に見つけました。正面に見えるのが、かつて半円形のサンルームだった場所でしょうか。

Base Operations, Haneda Japan

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これが、かつての半円形のサンルームと思われます。円柱のまわりに窓がぐるりとついている。HANEDA ARMY AIR BASEの看板がありますね。

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そういえば、庭園美術館というか旧朝香宮邸(昭和8年竣工)にも半円形のサンルームがありますよね。こちらも"角砂糖を積んだような建物"グループでしょうか。

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↓旧朝香宮邸の半円形サンルームは、内側からみると、こう。旧朝香宮邸のサンルームからは美しいお庭が見えますが、「胡椒息子」に出てくる羽田空港の半円形サンルームからは「何万坪とも知れない広い草原と、青い東京港が見渡れさた。」のです…。

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……と、ここまで書いてきて、藤田加奈子@foujika さんが、(占領前の)素敵な羽田画像を紹介していらっしゃるのを発見!さすがです。

 

 

 

おまけ:羽田飛行場のこの部分は、なんとなく地下鉄の御茶ノ水駅に似ています。

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これは地下鉄御茶ノ水駅の写真。御茶ノ水駅も角砂糖を積んだような建物グループ?東京インフラ027 御茶ノ水駅 | ドボ博 東京より

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以下、敗戦後の羽田空港のメモです。アチラさんの写真ばかりになりますが。

Air Transport Command, Haneda Field Tokyo, Post WW2

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TIA Base Theater Christmas 1956

TIAは、Tokyo International Airport。TIA Military base内の映画館。羽田付近の運河の写真などもあります。

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