パステルカラーの表紙に隠れていたもの

これは昭和14年(1939)3月号の「ホームライフ」です 。東郷青児の美しい表紙に、キャサリン・ヘップバーンの映画紹介、村岡花子杉村春子の生活エッセイ…。ほら、読みたくなってきませんか?

 

しかし昭和14年の日本は「100日後に死ぬワニ」的に言うならば「数年後に惨敗する日本」ですからね。ちょっと、内容を見てみましょう。

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キャサリンヘップバーンの映画は、2本も紹介されています。「ステージ・ドア」と「素晴らしき休日」と。ここまでは優美ですね。

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そして内幸町に立派な日本放送会館ができたよ!という記事。今のNHKですね。地下1階、地上6階。「3・4・5階をぶちぬいた演奏室は100人のオーケストラに1000人の合唱を放送することが出来る」と書いてあります。玄関ホールがツヤツヤです!

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しかし、いったんこの雑誌をはなれ、放送会館完成 | NHK放送史(動画・記事)という動画を見ると、この「日本放送会館」は、共栄圏や枢軸国にむけて「熾烈な電波線を戦う本拠なのである」とあります。「熾烈な電波線を戦う本拠」であれば、なるほど立派なつくりにもなりますね…

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さて昭和14年(1939)3月号の「ホームライフ」に戻ります。おやおや。7歳の少女による「大陸行進曲」の踊りが…。「呼べよ日本一億の いのちあふれる足音に 地平も揺れよ大陸の すべてのものはいま朝だ」という歌詞に、こまかく振付けがされています。「大陸行進曲」って、辻田真佐憲さんのたのしいプロパガンダ (イースト新書Q)に出てくるやつだ。f:id:NARASIGE:20200706162005j:plain

 

美人令嬢特集。この雑誌は常に令嬢特集をしていますが、この号は「勇躍大陸に赴任された」軍人の令嬢ですお父様が「聖戦第3年目を迎えた今年1月」に中支方面最高司令官に任命されており、「お父様が勇躍大陸に赴任されたあとは、かいがいしくお母さまをお助けして銃後のご家庭を守り、多忙と緊張の日々を送ってゐられます」とあります。f:id:NARASIGE:20200707105742j:plain

 

そして、「生活の無駄」という特集。羽仁もと子のエッセイは"国民精神総動員中央連盟で、冠婚葬祭には平服で良いと発表されたのに、いまだに正装をやめないのはいかがなものか? "という内容。この「生活の無駄」特集に、村岡花子杉村春子も含まれています。

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さらに、松屋洋服部仕入主任による「洋服事変考」。「いろいろな物資が制限を受けています。羊毛も、輸入がごく限られた数量した許されないので純毛の洋服がなくなりつつあります」「事変下のわが国としてはやむを得ない」「国家100年の大計のために耐え忍ばなければならないと思います」など、今後、事情が悪化してスフ混、純スフしか手に入らなくなった時の心がまえを説いています。

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巻末は「非常時の5分間お化粧法」…。「時局下の街頭」や「非常時にふさわしい」化粧の紹介。「アイシャドウやドウラン化粧に憂身をやつしてどきつい流行を追ったのは昔の夢。」とあります。でも、この雑誌はお金持ち向けなので、非常時とかいいながら、化粧のプロセスがけっこう多いです。

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森麻莉の妹、小堀杏奴のエッセイ「兵隊さん」も。「一昨年の秋、しばらくの間、出征兵士の宿舎をしていたことがあった」という書き出しです。演習帰りの兵隊さんの下着が「物凄い臭気」を発散させていたエピソードなどが書かれています。

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こうして見ていくと、東郷青児によるパステルカラーの表紙からは受ける印象と、実際の中身がずいぶん違います。しかし事変前のホームライフ は、表紙のパステルカラーと中身が完全一致していたのです!表紙も中身も贅沢万歳、舶来品万歳!だったのです…。ところが昭和12年7月の事変直後は、表紙も内容も極端に地味になりました。この時あんまり地味にしすぎた反省から、せめて表紙だけでも夢見るパステルに戻したのかもしれません。

 

パステルをやめて、地味にしてみた頃(昭和12年11月)

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↓こちらは、事変後、いきなり地味路線に変えた時の様子です。 

narasige.hatenablog.com