佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

「銃後のハナ子さん」その1 轟夕起子とハナ子さん

轟夕起子をモデルにした漫画「銃後のハナ子さん」

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引用元:日活サイト

市川崑監督の『青春怪談』(昭和30)で、丸々としたお母さん役だった轟夕起子。垂れ目で天真爛漫で、本当に可愛かった。

しかしその十数年前、彼女はとっても細かったのです。戦前〜戦中の「主婦之友」を何冊か持っていますが、もう、あちこちのページにスリムな轟夕起子が…。ファッションから髪型、いろいろな対談、美容体操まで!すごい人気。

私は『青春怪談』のふくよかな轟夕起子しか知らなかったので、ずいぶんとビックリしました。

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「銃後の花」から「銃後のハナ子さん」へ

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杉浦幸雄の漫画交友録』昭和53年/家の光協会

若い頃の轟夕起子にヒントを得て生まれた漫画が「銃後のハナ子さん」です。 戦中から戦後にかけて十数年間連載が続きました。作者・杉浦幸雄のエッセイから漫画誕生のいきさつを引用しますね。連載漫画のキャラ設定に迷っているとき、轟夕起子を見て「これだ!」とひらめいたとか。

まず、どんな主人公を作るか、これが問題です。今の人はこれを「キャラクター作り」といっていますがね。そりゃ、もう、ああでもない、こうでもない、と考えたものです。

それでもなかなか良いキャラクターが定まらず、困りながら、ある日「爆音」と言う日本映画を見ました。田坂具隆監督、小杉勇轟夕起子主演の田園ものの、小品ながらなかなか良い映画でした。ことに主役の轟夕起子さんが素晴らしいのです。紺のもんぺ姿がいかにも清楚で、可憐で、魅力的で、現代ならさしずめ大竹しのぶさんといった感じで、しかも軍国時代にふさわしい凛々しさがあります。これだ、これだ!と決心して、映画を全部見終わらないで、途中から飛び出して、早速うちへ帰ってキャラクターをつくりました。

題名は、戦争中で「銃後の花」という言葉が流行していたので、それからヒントを得て「銃後のハナ子さん」と決めました。(『杉浦幸雄の漫画交友録』昭和53年/家の光協会

昭和53年のエッセイなので、轟夕起子をたとえるのに“大竹しのぶ”を出していますが、愛される清楚なスターということなんでしょう。

漫画「銃後のハナ子さん」は、昭和18年轟夕起子主演で映画化され大ヒット。漫画もベストセラーで、作者の杉浦幸雄小石川区(現在の文京区)の多額納税者になったそうです。「ハナ子さん」と轟夕起子の効果、すごい!!

銃後のハナ子さん、「スフ」を洗濯する

こちらが実際の「銃後のハナ子さん」です。お鼻の丸いところや、垂れ目が轟夕起子っぽい?「主婦之友」昭和14年6月号より。

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「主婦之友」昭和14年6月号

▽拡大画像。ハナ子さんがスフ入りの服を、洗濯でボロボロにしています。国策で布にスフ(ステープル・ファイバー)が入っていた時代。

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「主婦之友」昭和14年6月号

▽その頃、獅子文六も「スフ」ネタを連発していました(笑)

narasige.hatenablog.com

▽同じく昭和14年、手編みセーターの記事の轟夕起子。綺麗ですね!「スフ」入り毛糸を使う際の注意書き有り。

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「主婦之友」昭和14年9月号

 以上、若い頃の轟夕起子と「銃後のハナ子さん」さんの関係でした。

漫画は(一見)ほっこりしているし、轟夕起子のセーター姿は可愛い。でも「銃後のハナ子さん」というタイトルが示す通り戦時中なのです。

次回は「銃後のハナ子さん」の時代背景をご紹介します。スフを洗ってるハナ子さんと同じ号の特集記事のタイトルが「産めよ 殖えよ 東亜に満てよ」だったことなど…。つづく

narasige.hatenablog.com

 

▽映画「青春怪談」の原作について

narasige.hatenablog.com

 

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