佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

コーヒーと恋愛とB29【獅子文六『コーヒーと恋愛』連載開始60周年】

敗戦から『コーヒーと恋愛』までは、17年

コーヒーと恋愛 (ちくま文庫)

仲間由紀恵の「トリック」も、クドカンの「木更津キャッツアイ」も、20年前のドラマだってご存じでした?いやあ、月日のたつのは早いものです(笑)

さて獅子文六『コーヒーと恋愛』(可否道)といえば、なんとなく“ノンビリした昭和”のイメージをまとっている作品ですが、新聞連載開始は1962年*1。 敗戦から17年しかたっていないんですね。主人公がテレビタレントなので、よけい戦争からの距離を感じさせないのかもしれません。

『コーヒーと恋愛』が意外と焼け野原に近いことを再確認できるのが、新聞連載時に挿絵を手がけていた宮田重雄のエッセイです。宮田重雄は、画家でありしかも医者でした(多才!)。今日はそんな宮田重雄のエッセイ集『竹頭帖』をご紹介しましょう。

【参考】敗戦間もない東京駅はこんな感じ。屋根無し。

マッカーサーが見た焼け跡』(文藝春秋1983年)に加筆

narasige.hatenablog.com

原田治が絶賛した挿絵

まず、宮田重雄の挿絵がどんな感じだったかご覧ください。これは『コーヒーと恋愛』(『可否道』)の挿絵。一瞬、「うっ、昭和すぎる…」と思われるかもしれません。でも、可愛いOSAMU GOODSでおなじみ原田治が、宮田重雄を絶賛していましたよ!「半世紀も前の絵なのにみずみずしくて新しい」って。→宮田重雄さしゑ展 - 原田治ノート

獅子文六全集 第9巻』(朝日新聞社)より

▽同じく宮田重雄による『青春怪談』(獅子文六)の挿絵。お背中ポッテリ♡

獅子文六全集 第7巻』(朝日新聞社)より

医師で画家。多才な宮田重雄のエッセイ集『竹頭帖』

このような挿絵を描いていた宮田重雄は、医師で、画家で、しかも人気ラジオ番組(『二十の扉』)にレギュラー出演していたとか。どれだけ多才なんだ…

軍需工場付属病院の院長だった時代と、「B29」の陳列

敗戦の年、つまり『コーヒーと恋愛』の十数年前、宮田重雄軍需工場の付属病院(田無の中島飛行機)で院長をしていました。院長室は、「敗戦論者」が本音を言える秘密のスポットになっていたようです。以下、エッセイ『竹頭帖』より引用。

私は当時、中島飛行機附属病院の院長として、田無の工場付属の病院を建設中であった。(略)工場の技師たちは前から敗戦論者であった。科学的知識のあるものは、当然、そう考えたであろう。B29の部品を、戦利品のごとく、工場内に並べ、工員たちの士気を鼓舞しようと、軍が計画した。しかし、技師たちにはその部分がいかに良く出来ているかが手に取るように分かった。そして、代わる代わる、院長室へ来て、悲観論を私に述べた。病院の院長室だけが、憲兵の目と耳のとどかぬ場所であった。

私は映画や小説で泣かない人間ですが、「技師たちにはその部分がいかに良く出来ているかが手に取るように分かった」という箇所を読むと、いつも泣いてしまいます。

そして、迎えた8月15日。

15日は病院で陛下のお言葉をラジオで聞いた。院長として私は、皆に何か言わなければならぬので、一同の前に立ったが、言葉は声にならなかった。涙を流しぱなしにして、口をぱくぱくさしたきりであった。 虚脱状態が来た。これから日本はどうなるのだろう。

「涙を流しぱなしにして、口をぱくぱく」の「虚脱状態」から17年で『コーヒーと恋愛』。愛らしい『青春怪談』(獅子文六)にいたっては、敗戦からたった9年。

「小説を提供する側」も「読む側」も、敗戦が“ついこの前の出来ごと”だった時代なんですね。(もっとも、焼け野原からわずか19年で東京オリンピックをやってしまうのだから、復興スゴイ、としかいいようがありませんが…)。ちなみに『コーヒーと恋愛』の連載時、獅子文六は69才、宮田重雄は62才くらいです。

まとめ

以上、獅子文六の『コーヒーと恋愛』の挿絵を手がけた宮田重雄のエピソードでした。敗戦との距離感を感じていただけたでしょうか。

そしてこのエッセイ、静かな表紙から想像できないほど情報量が多いんです。「私は衆道の心得はない」としつつも“ヒットラー以前のドイツ” で、ノドボトケのある美女がいるキャバレー*2に行った経験談があったり、獅子文六は早めに原稿をくれるからとっても助かる👍といった秘話なども。おすすめです!

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*1:昭和37年11月-昭和38年5月読売新聞

*2:ベルリンの「エルドラド」。戦後、パリに行ったらパリにも同様のキャバレーが大繁盛していて「かつての伯林のエルドラド風」と記してあったそうです。

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