健やかな花魁

「おいらん女中」(獅子文六・昭和33年)は、明治時代の吉原の花魁が、真面目な女中へみごと転職した小説。ネットリした情念とは無関係の、ほのぼのストーリーでした。

しかも、1年間びっしり「粘膜と粘膜の接触」をしてきたお客さん(エリート帝大生)の新婚家庭に入り、18年間も堅実な女中として奉公することになるんですよ。


(“えー?若妻のいる新婚家庭で、元・花魁が女中をッ?無理でしょう!”と、読者はドキドキさせられるわけですが、だいじょうぶ、何ひとつ起こらないのでした。)


■花魁の「転職」ってひとことでいうけど、昔は電化されていないからライフスタイルによって女性のカラダのつくりが全然違っていたと思うんです…。

ちょうど空港で働く特殊な形の車が、「空港の環境」でしか働けないように?花魁仕様のカラダ、漁村仕様のカラダ、みたいのがあったんじゃないでしょうか。

■で、獅子文六「おいらん女中」の主人公の「オイラン」(←カタカナ表記してあるところが、おとぎ話っぽい)は、そんな肉体の仕様の違いを楽々と越えてゆくのです。

毎晩、複数の男性と「粘膜の接触」して「朝寝坊を特権とするオイラン」が、早起きで骨身を惜しまず働く、真面目な女中さんに大変身!

(ちなみに、明治時代なので電化された高度経済成長期のお手伝いさん…とはケタ違いの労働量です。)

その「オイラン」は、色は白いが頑丈な骨組みで、無表情で堅実で親切、惚れたハレたとは無縁のキャラ、という設定になっていて、この頑丈な骨組みという設定が転職後に効いてくるんですなー。

彼女は「前身に似合わず、肉の厚い肩と大きな手」を持っており、他の女中がフウフウいって持つ重い漬け物石を「綿でもつまむように」処理してしまう。吉原時代も病気ひとつしたことがなかったという健康体なのです。東洋医学でいうところの、先天の気・・・・に恵まれていた女性だったわけ。


きっと、もともとの土台がしっかりしていたからこそ上手に転職できたんでしょう。

(しかし「おいらん女中」は幸せな例外であって、じっさいは過労で病気・早死にのケースの方が多かったのかもしれません・・・・)

広告を非表示にする