私は、着物と人間が「一体化」している姿が好きです。たとえば猫は、「猫」と「毛皮」が、(当たりまえだけど)一体化している。伸び縮み自由自在!あんな感じが理想なんです。
しかし日常の自然な着物姿って、なかなか写真に残りにくい。そこで、漫画の出番です。
前川千帆が描いた日常の着物
キュートな版画でおなじみ前川千帆は、日常の「瞬間」を切りとってくれました。デジタルネイティブという言葉がありますが、いわば着物ネイティブたちの姿がここに。のびのびと描かれた線がたまりません。これぞ、人と着物の一体化!
朝夕に 下女 這い渡る 長廊下
霊長を 涼しがらせる チンチロリン
茶摘唄 どの手拭いが 恋ぢゃやら
煤払い 下女怪力を 出して見せ
エステ帰り?
「岡目美顔術」(!)から出てきたお嬢さん。フワフワした装い。
美顔術 気のさすように なって出る
野外トイレ
2人とも尻っぱしょり+コウモリ傘。
野雪隠(のせっちん) 連れは大根の出来を褒め
着物を着ても、背筋、のびない
着物でグンニャリ。「着物を着ると、背筋が伸びます」は、着物が非日常な現代だから。
氷店 雪駄の客は 足を上げ
新世帯 まだ緊縮とまで行かず
(余談です。日本では現在見ることのできない一般の人の普段着が見たくなって、私はついブータンまで行ってしまったこともありました。 ブータン旅行記はこちら)
つらい光景
前川千帆は、ほのぼのした絵ばかりではなく、ツラい光景も描いています。ハカマ姿の電話交換手が、泣きながら働いている姿。「涙と汗が出る、苦しい女の仕事の一つだ」。かわいそう。
いくら顔が見えないからと云っても、何かと言えばズベタ、ウレノコリの悪態は毎日散々聞き飽きて居ても、聞く度に事新しくギクっと応える、(略)夏は暑い、涙と汗が出る、苦しい女の仕事の一つだ。
以上、前川千帆の漫画でした。 同時期に活躍した漫画家の中には、あえてラフなタッチで描く人も多い。当時の人が見れば、どんなラフな絵であっても、着物のデフォルメ具合をすぐに理解できただろうけれど、現代の私たちには無理!
その点、前川千帆の漫画は、文字にたとえるなら「楷書」みたいな感じ。現代の私たちでも、なんとかディティールを感じることができるのです。
そういえば、十数年前に作ったホームページ「着物イメージトレーニング部屋」でも、冒頭の“ゾウキンがけする下女”の絵を引用したことがありましたっけ!
実は私、前川千帆が「版画家」だと知ったのは、つい2年前なんです。それまでは(ゾウキンがけの絵などが)めちゃくちゃ上手い漫画家だと思っていました。ごめんなさい!
7月から開催の展覧会、楽しみです。
▽こちらにも、前川千帆の漫画があります。