佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

飲み会を夢見る時代 (『男の友情』獅子文六)

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新型コロナによる自粛期間中、「オレの考える最強の飲み会」をツイートする人が増えました。夜遅くまで騒いで、大通りで酔いをさまして、さらに公園でおしゃべりを続けて…みたいな。ことに表現のプロがツイートする“最強の飲み会”は、映画館なみの臨場感。読めば確実に、脳内に3Dで浮かぶのです。

『男の友情』(獅子文六)と、どんちゃん騒ぎ

自粛期間中に『獅子文六全集』を読み返していたら、まさに「理想の飲み会」をテーマにした作品を見つけたんですよ。タイトルは『男の友情』(「獅子文六全集11巻」朝日新聞社

  『男の友情』は、とってもシンプルな短編です。

仲良しオジサン3人組が、飲み屋でドンチャン騒ぎ→つい朝帰り→妻への言い訳を考える

たったこれだけ。

前に読んだ時は「ほほえましいなぁ」くらいの印象で、気に留めなかった。しかしコロナ禍の目で見て、ハッっとしました。 この『男の友情』は、戦争が本格化してドンチャン騒ぎができなくなった時期の作品だったのです。

昼間から、ジャカジャカ三味線を鳴らすなんて、今日ではおよそ想像もできない風景だが、そこは戦争前の認識不足時代で(略)

「戦争前の認識不足時代」=わりと近い過去を、“戦時中の読者”にうっとり回想させているんですね。

うっとりポイントは、作品中にこれでもかと散りばめられています。山奥の隠れ家系飲み屋、不要不急の小旅行、気のいいおばさん芸者(兼、女中)、どじょうすくいの腰つき…当時の読者の脳内には、桃源郷の飲み会が3Dで浮かんだはず。

そう。『男の友情』のキモは、「今日ではおよそ想像もできない風景だが」という一文なのでした!

▽「戦争前の認識不足時代」とありますが、この「認識不足」という言葉自体、日本がやばいフェーズに入った時期に誕生した流行語です。

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  ※『男の友情』は、発表年月日が書かれていません。しかし昭和11年公開の映画「半島の舞姫」がネタとして出てくるので、昭和11年以降の作品です。日中戦争昭和12年夏から。

▽参考:戦前の宴会のイメージ(昭和5年 前川千帆)。照れながらの隠し芸、茶碗でリズムをとる人…。2021年6月の私たちにとっても、まぶしい光景です。

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『川柳漫画全集 浮世行進曲』昭和5 前川千帆

お手もとに獅子文六(昭和13〜16年頃の作品)がある方は、もう一度読み返してみることをおすすめします。コロナ禍を経験した今、作品中の「自粛」や「時短営業」などの描写が、前とは違った解像度でせまってくるかもしれません!

『男の友情』に出てきた「認識不足時代」という流行語にヒントを得て、冊子を作りました。

narasige.hatenablog.com

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