最近、お笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」を知りました。チャラ男1人にギャル2人という設定(?)のグループです。
私はお笑いをよく知らないけれども、けっこう動画をみてしまった…。特に「チャラ男」役の人には、博多大吉先生的な何かを感じました。
獅子文六の短編『売家』と戦中のスローガン
さて、戦時中の“チャラ男とギャル”(的な存在)のかけあいを読めるのが、昭和の人気作家・獅子文六の『売家』*1 です。
戦時中ってなにかとスローガンがあるけれど、『売家』はチャラ男がそれをギャルに解説してあげるお話。つまり、チャラ男が(いま防衛省が探しているという噂の)インフルエンサー役なんですよ。
【参考画像】「臣道実践」「職域奉公」!
チャラ男がギャルに講義する「臣道実践」「公益優先」
短編『売家』に出てくるチャラ男(的な人)は、ニヤケた役者。もともと彼は、女のノロケ話ばっかりしている男でした。服装も派手で「ゾロリ」としていた。
ところが、そんな彼が急に「臣道実践」「公益優先」をすらすら言いだします。しかも「兵隊サンのような」国民服を着こみ、戦闘帽をかぶってウットリしてる。「(国民服は)楽屋でも大流行なんだよ。第一、便利でいいやね」と。
一方、チャラ男の幼なじみであるギャル(的な人)は、「新聞の演芸欄しか読まん女」。世の中の動きを全然わかっていません。
そこでチャラ男はギャルに、日本がすっかり「新体制」*2になっていることを教えてあげるのです。ギャルの好きな「資生堂の海老フライ」*3は、もう食べられない状況だということも。
しかし、新聞を読まないギャルには「新体制」がピンとこない。
「いいえ、その、 新体制ってことね、ほんとは、どういうワケなの」
少し羞ずかしかったが、思いきって、聞いてみた。この頃、よく耳に入る言葉だが、彼女には当て推量すらできなかったのである。
「 新体制かい?つまり、その、なんだね…公益優先、臣道実践てえことさね。」
チャラ男先生の熱い講義は続きます。
「公益優先、臣道実践」とは「つまり、朝から晩まで、お国のために尽くすことだアね」。
「職域奉公」とは「 役者は役者で、米屋は米屋で、炭屋は炭屋で、それぞれお国のために職業に精を出しゃアいいんだよ」。
ギャルは、「身近な世界に住む人間」=チャラ男の解説で、ようやく時代の急変を理解します。めざめた彼女は「お国」に尽くす気まんまんに!愛人からもらった家を売り払い、その金を迷うことなく国に寄付するのでした。(だから、小説のタイトルが『売家』)
当時の読者は、“チャラ男とギャル”のやりとりを笑いながらも、あらためて「時局を認識」したことでしょう…。
▽参考:「新体制」を漫画で解説しているケース。「ぜいたくは敵だ」や「買えよ国債」など。(新潮社「日の出」昭和15年12月)
▽参考2:NHKアーカイブスより昭和16年6月大政翼賛会の会議記録。「高度国防国家体制は、かかる力強き臣道実践体制の確立によってのみ、初めて実現できるのであります」
*1:獅子文六全集11巻/朝日新聞社。『売家』は書かれた年がわかりませんが、「国民服」が新しい流行として登場するところから、昭和15年末~昭和16年の日米開戦前の作品と思われます。
*2:「昭和15年6月、近衛文麿の提唱で、“新体制運動”が始まったが、これは挙国一致を目指す総力戦体制のための政治運動であった。したがって国民の生活や考え方も、戦争完遂のための“新体制”の趣旨に沿うことが要求された。個人主義的、自由主義的な考え方や、贅沢で派手な生活等は“新体制”に反するものであった。」獅子文六全集11巻注釈より。
*3:資生堂パーラー。獅子文六のエッセイ『ちんちん電車』によれば、若い頃、友人に「資生堂の息子」がいたためパーラーによく行っていたとのこと。