「わたしたちのヒットラー 総統と少女」
「わたしたちのヒットラー」……びっくりするようなタイトルですが、今日は戦時中の『婦人画報』(昭和17年5月号)を紹介しましょう。
▽「ヒットラー総統の誕生日に花束を捧げるために、ひしめき合っている少女たち」。ドイツの少女たちが「ヒットラーを渇仰する」のは「ヒットラーの人間的な美しさの現れであろう」などと書かれています。
▽このページは「わたしたちのヒットラー」を3回繰り返している。催眠術ですか?
子供達はヒットラーが大好きだし、ヒットラーも子供達が大好きである。(略)
ヒットラーをひと目見るために、少女達はひしめき合う。サインをほしがる。手をにぎってもらう。彼女たちは幸福である。少女はにぎられた手をそっと友達に見せる「わたしたちのヒットラー」
少女は花束をつくって総統に捧げる。すみれの様なやさしい花を…。その花束は総統の自動車の中に飾られたり、時としてはベルリンの官邸の書斎に飾られたりする。せっせと、少女たちは花束を作る「私たちのヒットラー」のために…。
▽ヒットラーが、少女「スザンネちゃん」を山荘に連れていき、苺ミルクをご馳走したというエピソードも。
1933年の夏であった。ベルヒテスガーデンの 群衆の前に総統は姿を現した。その時、丁度彼の前に小さな女の子が群衆の間をくぐり抜けてきて「今日は私の誕生日なのよ」と総統によびかけた。(略)「それではスザンネちゃん、何が一番好き?お誕生日のお祝いをして上げましょう」「私苺が大好きよ」そこで苺ミルクの御馳走が来た。彼女は沢山苺をたべて、帰りぎわに総統の首に背伸びをして可愛らしい接吻をした。
▽苺ミルクを食べたとされる「スザンネちゃん」は、BBCニュースのこの少女?記事には、「ヒトラーは本心からこの女の子に、親近感を抱いていたようなので」とありますが……う、うーん。
不思議な既視感
なんと「わたしたちのヒットラー」の文中には、ハッキリ、記事の“目的”が出ています。
人間ヒットラーの血のあたたかさを感じさせるに十分なる頁である。
しかし、誰がこの記事を手がけたのかわかりません。目次も、名前の部分が空欄だし。
ただ私は【キャンドルと手書き文字】のタイトルに、不思議な懐かしさを感じました。母がむかし定期購読していた『暮しの手帖』に、どことなく雰囲気が似ているからでしょうか*1。
▽暮しの手帖社『すてきなあなたに』の表紙。
手書き文字が上手な「HIGさん」の謎
ちなみに「わたしたちのヒットラー」と同じ号(『婦人画報』昭和17年5月)には、「HIG」とサインのあるイラストがふんだんに使われています。
▽「HIG」のサインの例・その1。「季節の手帖」の個性的な文字に注目。
▽「HIG」のサインの例・その2。一瞬、あれ『暮しの手帖』かな?と思ってしまいますが、書き出しは「米英撃滅の日まで、一億火となるべきとき」なんです。
手書き文字とカットがとても印象的な「HIG」さん。
目次にはカット担当として「HIG」さんらしき人物=「樋口渡」の名前があるけれど、いったい誰?
巻頭に大政翼賛会のひらがなメッセージ
そしてこの時期、『婦人画報』の巻頭には大政翼賛会のメッセージがカラーでドーンと!昭和17年、他の雑誌はどんどんみすぼらしくなっていくのに、カラー。(大政翼賛会といえば、花森安治は大政翼賛会宣伝部でしたね)。
戦ひは長い。けれども、前途は明るいのです。どんなことがあつても、私たちはしつかりしませう。
……以上、「わたしたちのヒットラー 総統と少女」でした。ナゾにつつまれている記事ですが、とりあえずこの【わしづかみ力】をおぼえておきたいと思います。
きっと新しい戦前には、宣伝の達人が活躍するでしょうから。