「暖房完備」が売りだった頃
昭和の広告を見ると、「冷房完備」を強調しているお店がありますよね。実は「暖房」も、けっこうアピールされていたようなのです。
たとえばこちらは銀座のティールーム、「純喫茶・白馬車」(昭和28-30頃)。この外観、当時はエルメス銀座くらい輝いていたのではないでしょうか*1。
▽ 輝やく純喫茶を拡大。「暖房完備」をわざわざ書くのです!
▽純喫茶「白馬車」は、はとバスが止まるレベルのメジャーなお店だったらしい。こんな店でさえ「暖房完備」をウリにするとは。(画像はネットの拾い物で、リンク先不明です)。
ちなみに、この「白馬車」の看板は、映画『銀座二十四帖』(川島雄三)にも、ほんの一瞬ですがうつっています。
映画館も「暖房完備」をアピール
さらに映画館も暖房完備をうたっていました。
▽ 「本格暖房」の看板をごらんください。これは神戸の映画館(昭和28年)。敗戦から8年。かなり華やかな装飾だけど、やっぱり暖房が売りなのです。
Navy 37 1953 12 Japanese Theater, Kobe | pveSummerhaven | Flickr
▽本格暖房の看板を拡大。
▽こちらは昭和29年の銀座。自由の女神像の左右に「暖房完備」を明記しています。https://www.flickr.com/photos/kristinawise/9148053556
ガールフレンドの死因は、寒い映画館?
現在の映画館は暑いくらい暖房がきいているけれど、かつて暖房ゼロの時代がありました。昭和のニュースキャスター・古谷綱正の『私だけの映画史』(暮しの手帖社)には、敗戦まもない時期の映画館が登場します。
暖房のない映画館は底冷えがひどくて、古谷綱正と映画を観たガールフレンドは持病が悪化、その後亡くなったのだとか。せっかく戦争を生きのびたのに、映画館の寒さが遠因で命を落とすなんて辛すぎる!
このエピソードから、「暖房完備」の看板が持っていた意味がうかがえると思います。
以上、暖房をアピールしていた時代を紹介しました。
余談ですが、これはカルピスのCM(1972)です。終戦から27年。「真冬、暖かいお部屋で冷たいカルピスを飲む」という敗戦国の夢を煮詰めたような映像がちょっと切ない。
*1:実際は戦前のビルを白くカバーして新しく見せているのかもしれません。元のビルの窓が透けて見えます