野戦病院と『マッシュ』
2021年8月。新型コロナの感染者が急増し、SNSでは「野戦病院」という言葉をたびたび見かけるようになりました。あぁぁぁ。
そして「野戦病院」を描いた映画といえば『マッシュ』(1970)です!『マッシュ』は、「Mobile Army Surgical Hospital」の略で、 朝鮮戦争を舞台にした外科医のブラックコメディです。原作小説*1では、負傷者が一度に大勢運ばれてくる医療崩壊状態を「ノアの洪水」とよんでいましたっけ…。
▽2021年夏、都民の心象風景?負傷兵を運ぶオープニングです。
わたし『マッシュ』については、映画・小説とも食わず嫌いしていたんですよ。「どうせ、“極東でヤンチャした俺たち😁”みたいなノリでしょ?」と思っていた。
実際映画を見てみると、まぁ、そういう「あぶない刑事」っぽい部分もありました。が、とにかく手術シーンのベラボーな長さと、吹き出す血の量に驚きましたね。あと、外科医役ドナルド・サザーランドの顔幅の細さにも驚いた。
『マッシュ』と、獅子文六『やっさもっさ』は、同時期を描いている
『マッシュ』と同時期の日本はどうだったのか?
実は、それを描いているのが、獅子文六の『やっさもっさ』だったりします。『マッシュ』と『やっさもっさ』ではイメージが違うから、とても同時期に見えないけれど。
『やっさもっさ』は1952年(昭和27)、新聞に連載された小説。「国は破れ、山河とパンパンだけが残った」横浜が舞台です。
一方、映画『マッシュ』は、時代設定こそ1951年ですが、制作は1969年・公開は1970年。つまり、ベトナム戦争の真っ最中。監督のロバート・アルトマンによれば、観客を“現在進行形のベトナム戦争”と混同させるために、あえて朝鮮戦争の要素を薄くしたのだとか。*2
そのせいか、『マッシュ』の俳優陣に1950年代感はありません。どう見たって、1970年っぽい髪型とメイクなんです。
だから1953年公開の『やっさもっさ』と、1970年公開の『マッシュ』が、同時代に見えなくても仕方ないですよね?!
とはいえ、『やっさもっさ』では「朝鮮の戦線で大負傷」した兵士が横浜の病院に入院しているし 、横浜のパンパンが代筆屋に頼む手紙の宛先は「朝鮮のミスター・ヘンリー・スタンセン」といった調子です。
一方、『マッシュ』には日本の病院が登場し、外科医ドナルド・サザーランドが日本で手術をしています。
このように、両者は同時期の、日本と朝鮮半島の話なんですね。獅子文六の『やっさもっさ』がお好きな方は、ぜひ映画『マッシュ』もあわせてご覧ください。
▽朝鮮戦争の負傷兵(重傷)は、日本の病院に運ばれていました。
▽当時の「お・も・て・な・し」