私は「観劇で陶酔する」ことに憧れている。
いままでそういう経験が全くないからである。
獅子文六の「写真」(獅子文六全集第11巻)という短編に70歳近くなって観劇の喜びを発見する女教員の話があって、それがとてもイイ。
独身で通した女教員は、明治の女書生の生き残りで芝居に全く縁の無かった人。しかし退職後、教え子に誘われて歌舞伎を見に行き、すっかりはまってしまうのだ。役者の1人に激しく心惹かれ、芝居に通い詰め、ブロマイドを買い集め、湯飲みや手ぬぐいも彼のグッズを使う。教え子達は、その様子をあざわらって「お婆ちゃんの執心って、もの凄いものね。今まで、あンまりお慎みが過ぎた反動よ」「今更、気味が悪いわ」等、ヒドいことを言うのである。
しかし、女教員の心は、この上なく清らかでハッピーだった。
ああ〜、私もこういう境地になってみたい。
(↓中野サンプラザの側面に止まっていた、きよしさんのトラック。なんとなく眺めていたら年配女性に声をかけられ、トラックを背景に写真をとるよう頼まれた。)