佐藤いぬこのブログ

戦争まわりのアレコレを見やすく紹介

【戦場は君たちを待つ】少年兵募集の雑誌『海軍』

なかなかツラい本を入手しました。少年兵募集に重点を置いた雑誌『海軍』の創刊号です。(昭和19年5月/大日本雄弁会講談社)。表紙には「戦場は君たちを待つ」の文字が……

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

目次を見ると、もはや雑誌というより[海軍省の募集パンフレット]に、小説や漫画がのっているイメージです。「海軍省人事局」「大本営海軍情報部」をはじめとして、海軍関係者がずらり。

『社史に見る太平洋戦争』によれば、昭和19年講談社

海軍省後援の『海軍』、陸軍省後援の『若桜』の両誌を創刊した

とあります。戦局の悪化でいろいろな雑誌が休刊しまくっている状況で、新たに創刊された雑誌は軍のリクルート系…というわけです。

▽たとえば『海軍』の中身はこんな感じ。海軍省人事局指導のページ「海軍志願兵になるには」。早わかり!

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽巻頭には「想像絵 ワシントン大爆撃」。日本の最新鋭爆撃隊がアメリカを攻撃するイメージ画像です。説明文のすべてにフリガナがついている。小さい人むけ。

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽漫画の魅力もすごい。「2023年のイラストですよ」と言われたら信じてしまいそう。

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽かっこいいアニキ像。

僕たちもいくぞ。いのち捧げる時はきた。あとに続かん皇国の少年兵たち

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽玉砕を美化

天皇陛下の御ために、御国のために身をを捧げる時はいまだ。

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽執筆陣には、人気作家・岩田豊雄獅子文六の本名)も。脚本家・笠原和夫の言葉を借りるなら、当時の獅子文六は「筆力をもって若者達を海軍に志向させ」*1る作家だったのです。

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

▽ この広告、大人向けの雑誌でもよく見かけるけれど、少年向けの雑誌に出ていると余計にえぐい。

昭和19年5月『海軍』創刊号(大日本雄弁会講談社

以上、雑誌『海軍』の紹介でした。この雑誌は子供たちをその気にさせるために、一番効き目のある人たちをチョイスしているように見えます。ぬるい小説や、下手なマンガじゃ“効き目”が薄いですものね。

「新しい戦前」とされる昨今、誰が選ばれるのでしょう。やはり人気YouTuberですか?気になるところです。

narasige.hatenablog.com

 

*1:「戦時中、私たちの世代なら大方が感奮させられた小説『海軍』の著者岩田豊雄氏が、獅子文六ペンネームで『てんやわんや』『自由学校』を発表し、戦後社会のオピニオンリーダーとして脚光浴びているのが許せなかった。海軍の実態は、岩田氏が書いたものとは全く違う。それはリアリストの岩田氏も認識していたはずである。それを隠して美化し、筆力をもって若者達を海軍に志向させ、それで死んだものも確実にいたはずだ。」(笠原和夫『破滅の美学』 ちくま文庫

h3 { color: #FFFFFF; background: #000000; padding: 0.5em; } h4 { border-bottom: dashed 2px #000000; } h5 { border-bottom: double 5px #000000; }